2013年6月20日木曜日

キャンパスアジア・ソウル編のまとめ

◆民主主義を勝ち取った国
 韓国は民衆の運動によって独裁制を打破し民主制を勝ち取った国。現在でも政治運動が盛んで、大統領選ともなれば街に繰り出したり贔屓の候補のボランティアを買って出る学生は多い。

 一方、学生とその親の世代の価値観の断絶は大きい。例えば、開発独裁により韓国経済の礎を創ったとして、朴正煕元大統領を評価する中年層は多いが、若年層は民主化を阻害したとして、彼に批判的な者が多い。

 民主化運動が最も激しかったのはソウル大学であり、ソウル大学の裏には今も軍事警察の施設が置かれている。ソウル大学の教授からは、自分の大学の友人が民主化運動の中で死んでいった、などの話を聞くことができる。

◆ソウル大学
 ソウル大学で学べば、いかに学生が社会から大切にされているかを感じることができる。森に囲まれたキャンパス、24時間運営の図書館、山の頂から街を一望できる寮など、日本にもほとんどないようなキャンパスで一年間学ぶことができたのは本当に幸せだった。

 韓国人は子供を大切にする。子どもの塾や習い事などの教育にはとことんお金をかける。しかし、日本人の感覚では子供に「甘い」という気もする。例えば、飛行機機内で座席を蹴ったり窓を叩いたりして暴れる子供を厳しく注意しないということがあった。また、図書館で誰かが忘れた目覚まし時計が鳴り続けているのに誰もそれをとめようとしないなども。

 韓国の人々は身内や仲間は非常に大切にするが公共やエチケットのために行動しようとする考え方は薄いのかもしれない。例えば、家族のためなら喫茶店の注文列にも平気で割り込んでくる。それは日本との違いである。双方に一長一短がある気もする。日本の場合は逆に、エチケットや世間を気にしすぎるためか、ぶっ飛んだ発想や行動、社会の創造性を自己規制する風土が強いのではないか。ただ、韓国社会から民主化当時の公共のために行動するという気概が失われつつあるとすれば、それは大きな社会的損失だろう。

◆活気と格差と弁護士集団
 ソウルをあらわすキーワードの一つは活気である。カンナムや夜のホンデを訪れれば六本木や渋谷を超える猥雑性とエネルギーを見出すことができる。

 しかし、もう一方のキーワードは格差である。アジア通貨危機の折、韓国のエリートの多数が職を失った。夜、タクシーを拾い、ドライバーが英語に堪能でありぎょっとしたことがある。彼は昔はライオンズクラブのメンバーで日本に社費留学した経験もあったという。

 韓国の学生と教育を論じると、悲観的な意見を聞くことが多い。ソウル大学の学生には、財閥が経済を独占し、その子弟が潤沢な資金を背景に若いうちから海外の中学や高校に通うことを苦々しく思っている者も多い。ただ、結局は財閥の優位を崩すことはできないと考える者が多く、教育政策の可能性には悲観的な意見が多い。

 韓国ではサムスンなど、一部の財閥系企業は国際的な競争力を持っているが中小企業が弱い。例えば、パン屋といえば財閥系列のパリスバケットで、それ以外のパン屋は潰れてしまってほとんど見つけることができない。そして学生は財閥系企業もしくは外資系企業に入社するために大学入学当初から投資サークルや戦略コンサルティングサークルに入って研鑽を積む。また、有名なサークルに入るためには、難関の入サークル試験や面接を突破しなければならない。良い大学に入るかどうかが人生に与える影響も大きく、子供の頃から学習塾や英語塾に通う。住宅と子供の教育が現代の韓国人の借金をつくる二代要因だとされている。

 格差についてもうひとつ指摘できるのは都市地方間格差である。韓国のリゾートとして有名なのが済州島で、マリンスポーツや非常に美しい自然などを楽しむことができる。済州島は街の人も気立てが良く、賑わっている観光地だが、気になるのはいかがわしいお店が非常に多いということだ。都市部に産業や資金や人材が集中した結果、地方の産業は著しく衰退しているのかもしれない。済州島の市場にいくと、多数のお店があるものの、そこで売られている商品が非常に似ていることに驚かされる。

 このような格差の是正を求める集団の一つが弁護士集団である。例えば韓国の民弁というNGOは、現ソウル市長のパクウォンスンを創始者に持つ団体であり、所得の低い個人がサムスンなどに対して訴訟を提起するのを支えたり、経済民主化を促進する立法を提起するなどの活動を行っている。弁護士であり、社会起業家でもあるパクウォンスンは、ソーシャルビジネスアイディアという本を執筆したり、政策をビジネスにする方法を提案していたりして興味深い。

 僕の友人の一人も民弁のメンバーである。民弁の学生メンバーの中には弁護士や政治家を志す者も多く、民弁は次世代の韓国社会の可能性を感じさせる集団だ。

◆対中意識とドルフィンストラテジー
 韓国に留学して思ったのは、国史はその国の人々のアイデンティティーや世界認識に強い影響を与えるということだ。

 韓国の男の友人と対中認識を論じると日本人とはかなり異なっていることに驚く。日本人の学生は、過去に中国と戦って勝った歴史をもっているためか、そうやすやすとは中国に負けないという、タカ派的な気概を持つことも多いと思う。しかし、韓国人の学生が口を揃えて言うことは「中国には勝てる気がしない」ということだ。

 韓国は歴史上中国からの侵略にさらされてきた国であり、その点で日中の歴史とは異なる。また、朝鮮統一という悲願を実現させるために中国に期待する韓国の学者や若いインテリは多い。

 韓国人の友人と世界情勢の話をして印象深かったのは、「俺達は日本と清の権力争いで間違った方を選択した。中国と米国との間では正しい選択をしたい」という言葉である。最近、韓国では中米の間で賢い外交を行おうとするドルフィンストラテジーという考え方も提唱されているようだ。

 友人達が暮らす韓国の考え方を理解しつつ、更に別の友人達が暮らす中国が責任ある大国として成長を遂げるために、日韓がどのような行動をとるべきか。このことを考え、働きかけを行うのが私達がこれから成していかなければならないことの一つだと思う。

◆日中韓の学生の大局観と緻密性の比較
 ソウル大学に一年間留学し、キャンパスアジアの政策コンテストに二度出場した。その中で感じたのは、中国の学生の大局観、韓国の学生のスピード、日本の学生の緻密さである。特に中国の学生と議論すると、議論が飛んだと感じることが多い。しかし、中国の学生は常に議論のゴールは何か、本質は何かを考えていると感じる。

 日本では、細かく議論を詰めることが全てであるという考え方が支配的なのではないか。しかし現実には、確かに非常に細かくみるとその点は正しいが、実際は瑣末な論点にすぎないといことは有り得る。日本の従軍慰安婦問題の狭義の強制性に関する議論がそうなっていないか、私達日本人は、大局観を意識しつつ細部を詰めるという思考方法を磨いていくべきだと思う。

 そして、これができれば日本人は中国や韓国、さらに米国の学生と協力しながらリーダーシップをとることができる。このことを、二度目の政策コンテストでの優勝を通して学んだ。

◆日韓の法意識の違い
 日本は一度できてしまった法は少なくともその時点での正義や社会的コンセンサスを反映するもので、後に新しい価値観によってそれを覆すことはできないと考えやすい。

 一方、韓国では遡及立法も珍しくない。例えば、植民地期に日本に加担した人々の過去の土地等の取得を、訴求立法を用いて無効として没収したり、賠償を命じたりすることが今も行はれている。

 竹島に関しても、韓国の学生と議論するとこの「遡及立法」を用いても「正義」を追求しようとする姿勢が見受けられる。例えば、竹島については、韓国に力がなかったために、竹島編入やサンフランシスコ条約の返還領土規定の策定の際に韓国の主張を通すことができなかった、という意見を韓国の学生から聞かされることがある。ここでは、李承晩の行動は遡及的に正義を回復する行為である。

 日本人として、おかしいと思うことははっきりと主張して良いと思うが、相手の主張で一理あると思う部分には配慮を示すことも大切であると思う。例えば、サンフランシスコ条約の文言調整では、日本の交渉力や米国の情勢認識が影響した部分も大きいと思われる。

 竹島に関しては、二島のうち一島を日本領とし他方を韓国領とするという提案をしたところ、韓国の学生から賛成の意見をもらったことがある。原則論に囚われず、幅広い妥結の道を探ることが、日韓の長期的な国益に沿うのではないか。

◆高田馬場・新林考試村の桃宴
 高田馬場でソウル大学で出会った友人達を飲みに連れていき、新林考試村で中国のキャンパスアジアメンバー5人をマッコリ居酒屋に案内して飲む。

 北朝鮮の開発をやりたい、そのためにまずは金融の道に進む。
 盧武鉉元大統領のような大統領になりたい、まずは日韓の弁護士資格を取る。
 格差の著しい中国の地方を発展させたい。
 環境分野の学者として中国ひいては世界の環境政策をリードしたい。

 中国や韓国の学生と話していると、領土問題や歴史問題はあれど、彼らは同じ北東アジアに生きる仲間だと感じる。キャンパスアジアで出会った仲間達との友情に応えるためにも、アジアの平和を守り、アジアの時代を創るために働きたい。
 「行動しろ、リーダーになれ。」
 
 韓国での出会いや想いを糧に、これからも挑戦を続けていきたい。

◆アジア主義と自由主義
 清沢洌の評論を紹介した「外交評論の運命」は自由主義を支える勢力としての日本を考える上で参考になった。アジアの地域統合を進める上でも、どのような形での秩序形成を図るべきか、過去の歴史や思想に学びつつ、日本の針路を考えていきたい。