2018年11月4日日曜日

海洋プラスチックごみ問題

◆もう一つの地球環境問題

 近年、温暖化問題と並んでクローズアップされている問題があります。海洋プラスチックごみ問題です。これは、海に自然界では分解されないプラスチックが流れ込んでいるという問題で、突然死したクジラや海鳥の胃から大量のボトルキャップが出てきたり、ごみが集まっている太平洋上の広大な地域を国連に国として登録しよう(Trash Isles)、とする動きがあったりする問題です。

◆海洋プラスチックごみの問題点

 この問題、水俣病の時と同じく、健康被害をおよぼす問題かどうかは、現状では科学的に明らかとはなっていません。でも、プラスチック自体には有害物質が含まれており、また、マイクロプラスチックは様々な有害物質を吸着しやすいという話もあったりします。実は、最近の研究では、ランダムに選んだ被験者全員の便から、微小なマイクロプラスチックが検出されたという報告や、調査した食卓塩の9割からマイクロプラスチックが検出されたという報告もあるようです。また、直接の健康被害の他に、生態系に与える影響も問題視されています。

 更に、大量に海岸に流れ着くごみも問題となっています。例えば、海産物の産地として有名であったある島には、近年大量の海洋ごみが流れ着くようになったところ、高齢化も進んでいるため海岸のごみの拾い手を確保することが難しく、また、海洋ごみを回収するにも自治体に費用負担が発生するため、ごみを放置していると言った状況も生じているようです。いづれにせよ、せっかくの海水浴で海に出た時、海にごみが浮んでいて、飲んだらヤバイよとか言われたら興醒めだと思います。海洋ごみ問題は、来年日本開催のG20も見込んで、世界を巻き込んで解決していこうとの機運が高まっている問題です。

◆現状分析と当面の解決の方向性

 この海洋ごみ問題についてですが、世界各国がどれくらいのごみを海に流出させているかという、国際的に合意のとれた分析はまだ存在していません。ただ、現存する推計値として活用されているのが、jambeckの論文です。これによると、海洋流出の1位は中国、2位はインドネシア、20位アメリカ、30位日本となっていたりします。(ちなみに、ロシア、韓国、欧州諸国は日本より低い排出量となっています。)ここで、推計の方法についてですが、これはまず、経済規模等からプラスチックごみの発生量を国ごとに推計し、あとは国ごとの排出係数に一律の流出係数(最小15%、最大40%)をかけて国別の流出量を推計するというものです。

 そして、日本、アメリカ、欧州等のG7加盟国の排出計数は、ポイ捨てなどで海洋流出する、一律2%と整理されています。これは、国内のごみ収集・処理の仕組が整備されているため、例えば、インドネシア等で発生しているのではないかとされる、ごみ処理場にプラスチックごみが積まれており、それが雨等で海洋に流れていくと言った問題がおきないと推定されているためです。

 中国とかは、この推計はそもそもおかしいと言っており、推計の精緻化も含め検討が必要なことは勿論なのですが、ひとまずの方向性は、途上国向けに廃棄物収集と適正処理のインフラ整備を支援していく、というのが海洋流出ごみを減らしていく上で一番インパクトのある政策だと思います。

◆今後に向けて

 当面のところこの方向で対策をとるべきだと思うのですが、その次に問題となるのが、2%をどうするかという問題です。jambeck論文に従うなら、世界の全ての国に先進国並みの廃棄物処理システムが整備されれば、世界の国々の排出計数は一律で2%となるはずです。これは、ポイ捨て等により海に流出する海洋ごみです。解決の方向性としては、①自然界で分解される素材にプラスチックを置き換えていく、②ポイ捨てをなくすために罰則を強化する、③海洋プラスチックごみの回収を強化するの三点が考えられるのではないかと思います。

 ①としては、生分解性プラスチックという、海洋中で分解されるプラスチックの開発が進んでいます。ただし、現状の技術では分解までに長い時間がかかる、普及するためのコストがかかりすぎるという問題も指摘されていたりします。②としては、例えば、アフリカでは、ブロックチェーンを活用したベンチャー企業が、プラスチックごみを拾った個人に報奨金を出すようにしたところ、プラスチックゴミの回修量が増えたと言ったことが報告されているようです。また、③に関連してアメリカでは、洋上に海をこしとる大きな機械を設置して、海ごみを回収するという取組を始めているところもあるようです。さらに、韓国では漁船が回収した海洋ごみを政府が買い取るという取組も進めており、観光産業・漁業の活性化と共に環境の改善を実現しているとのことです。個人的には、ポイ捨てを100%なくしていくことは難しいと考えているので、廃棄物管理の徹底の次に重視されるべきなのは、海洋ごみの回収強化なのではないかと思います。

 今後、キャッシュレス化が進めば、バーコードなどと連動して、どの個人がどのペットボトルを買ったかということを、把握することもできるのではないかと思います。なので、追跡調査の結果、適正処理が確認されなかったペットボトルを、最終的に購入した個人を特定して罰金を課し、その罰金を海洋ごみを回収するベンチャーや、海洋ごみを回収する自治体の原資に回すと言ったことも可能となるのではないかと、個人的には思います。そして、上記のような制度は日本だけに閉じるのではなく、賛同してくれる国と条約をつくり、世界共通の仕組みとしていくことが、長期的には重要になると思います。いづれにせよ、世界の海洋ごみ問題を解決するには何が必要か、引き続き考えていきたいと思います。

※流出漁具への対策

 日本に漂着する海洋プラスチックごみを、重量ベースで分析した際の約6割が漁具という推計もあったりします。この漁具は先ほどのjambeckの論文の推計には含まれていない部分です。なぜなら、jambeckの2%というのは陸域からのポイ捨てとかしかカウントしておらず、海上から流出するごみはカウントできていないからです。漁具がどれくらい流出しているかの分析はまだありませんが、海洋漂着している割合から逆算して、仮に先進国からの流出をポイ捨てと合わせて5%と考えると、ポイ捨て対策と並んで漁具対策も重要になってくると思います。これはたとえば、各漁具に識別コードを付して、デポジット制を導入していくなども考えられると思いますが、今後検討が必要な分野だと思います。

※ICOによる海洋ごみ問題へのアプローチ

 先述のtrash islesの対応など、既に海洋流出しているごみの回収も、実は重要な問題だと思います。なぜなら、海洋にごみがある限り、それが次第に分解されてマイクロプラスチック化してしまうからです。個人的には、trash islesを一掃するためのプロジェクトをやるべきだと思います。そのための原資を集める手段として、国連とかの機関にも働きかけて仮想通貨を発行しても良いのではないかと思います。この通貨は、例えば代替プラスチック製品など、海洋ごみの流出解決につながる製品のみで決済可能な通貨とするべきだと思います。そして、ICOで集まった資金で、trash islesの一掃プロジェクトを実施していくべきだと思います。また、韓国で実施されているような、漁船が魚と一緒に回収した海洋ごみの買取制度を導入することも一案だと思います。海洋ごみの回収については、韓国だけでなく、アメリカやイタリアでも注目されているアプローチの一つのようです。

※jambeckの論文(対策の基礎となる論文)

https://www.iswa.org/fileadmin/user_upload/Calendar_2011_03_AMERICANA/Science-2015-Jambeck-768-71__2_.pdf

※プラスチックバンク(仮想通貨を活用した海洋ごみの回収プロジェクト)


※Trash Isles(国連加盟が申請されているごみ諸島)

http://www.ladbible.com/trashisles/welcome

※Ocean Cleanup(海上に浮かべたチューブでごみを回収するプロジェクト)

→想像以上に凄いプロジェクトです。まだ見ていない場合は是非御覧ください!(設定で日本語字幕も表示できます。)これからの行政のあり方についても考えさせられる内容です。
https://japanese.engadget.com/2015/04/12/100km-7-the-ocean-cleanup/