2012年6月18日月曜日

日本のエネルギー政策


 日本のエネルギー政策について現在最も関心を集めているのは、原子力発電を国の電力政策の中にどう位置付けるのかという問題である。政府は原発の再稼働を決定したものの、依然として市民活動家などを中心として原発廃絶を訴える声は根強い。また、脱原子力を巡る動きは世界にもあり、ドイツでは原子力発電所の閉鎖を決定し、韓国でも原子力を巡る国民的議論が高まりつつある。

 原子力発電の位置づけを考えるにあたって考慮すべき論点は多い。その中でも特に代表的と思われる論点をあげると、エネルギー(供給量・安定性・持続性・安全性)、経済産業(次世代産業の育成・インフラ輸出)、安全保障(潜在核・テロ対策)、政治(国際イメージ・国内イメージ)である。

 これまでの原子力発電は、電力の供給量・安定性に優れ温室効果ガスの排出も少なく、災害にも強い発電方法と考えられてきた。これらは、国内産業の空洞化が進む中で国内での安価な電力需要を可能とし、少しでも産業の空洞化を押しとどめるために重要であった。また、インフラ輸出、世界的な脱化石燃料の流れから考えて経済産業の観点からも重点的に推進されるべきものと考えられてきた。また、安全保障の面からも国内に一定の核燃料を保持しておくことは、いざという時に日本が核兵器を製造する能力を持っていることを陰に示すことにもなり、潜在的な抑止力として作用するものであった。以上のような観点から、これまで原子力は国のエネルギー政策の中心として推進されてきた。

 しかし、今回の東日本大震災により明らかになったのは、原子力発電所の安全面の脆弱性とそして何より、万が一事故が起きた場合の損害があまりにも大きいということである。この点に関しては、東日本大震災自体はあと数百年起きないであるとか、科学技術を進歩させれば同規模の地震には対処できるなどの声もある。しかしながら、日本は世界随一の地震国家であり、東海沖地震をはじめとして、将来的に大地震が発生するリスクが非常に高く、このリスク自体は軽減されえない。また、技術の進歩により同様の事故の発生を防ぐことはできても、その可能性をゼロにすることはできない。原子力発電は事故発生時の社会的損害が甚大であるために、事故発生確率以上に事故発生時の損害を重視すべきである。

安全保障の観点に目を移すと、テロリストによる攻撃にも警戒する必要がある。原子力発電は、冷却装置が破壊されるだけでこれだけ大きな社会的損害を生じさせてしまうものである。厳しい財政状況の中で、国内に分散した原子力発電所をテロ等の攻撃から守り続ける体制を敷くことができるか疑問である。また、日本の財政状況や日本の周囲の安全保障上の脅威に注目した場合、日本が核武装をするという選択肢は現実的でない。なぜなら、中国に対しては仮に日本が核武装をしたとしても、相手の軍事行動を十分に抑止することは双方の軍事力の格差や国土面積の差異から考えて期待しがたいし、北朝鮮に関しては核の抑止力を行使する必要性が少ないからである。安全保障の観点から現実的な政策は、財政面からも、米国の核の傘をある程度の抑止力としながら米軍と連携して専守防衛に徹し、自衛隊の防衛力を維持していくことである。アジア地域の平和の観点から日本の防衛外交政策に求められるのは継続と維持とアジア諸国との対話の促進であり、大きな政策転換ではない。このように考えると、日本国内の攻撃目標をテロや諸外国に与えないという観点から、なるべく原子力発電所の数は減らしていくことが望ましい。

 政治面については、今回明らかになったように、第二次世界大戦時の原爆投下の歴史を起源として、日本国内の反核思想は根強いものがある。また、世界で唯一の被爆国という立場を活かせば日本は、現在オバマ大統領が進めようとしている核廃絶を目指す国際政治のうねりの中でも中心的な役割を果たすことが可能なはずである。世界における日本の位置づけを考える時、純粋な経済力の点ではBRICs諸国に追い越されていくことが避けがたい日本にとって、今後、世界における政治力はこれまでより重要となる。そのような情勢を見通した時、経済力の陰に隠れて軽視されてきた国力の三構成要素の一つの、「政治力」という点を今後はより重視していくべきである。この点から、日本が反核・脱原子力という国際的な価値を打ち出しやすい素地をつくるためにも、原子力発電は縮小していく必要がある。

 経済産業の点ではどうか。確かに日本の産業空洞化は深刻な問題である。この問題に対処するために、国内の重工業に従事する企業を主な対象として、できるだけ安価な電力供給を国内で行うことの重要性は看過されてはならない。しかしながら、この問題に対するより本質的な解決策は、国内に重工業に変わる産業を興すことであり、日本国民の一人一人の職務能力を情報革命とグローバル化が進む現代においても十分に稼いでいける水準に高めていくことである。この点から、経済産業の点でもより重視されるべきは新産業の育成と生涯教育も含めた教育雇用政策の推進である。

 以上より、日本は今すぐに原子力発電所を全廃するまでには至らずとも、国内のエネルギー政策における原子力発電の位置づけは副次的なものとするべきである。短期的には原子力や天然ガスなどの化石燃料により国内のエネルギー需要を賄いながらも、中長期的には太陽光発電・風力発電・水素発電などの次世代エネルギーの推進をエネルギー政策の中心にすえ、重点的に予算を配分していくべきである。また、原子力発電に関わる予算は順次削減し、削減分の一部を、教育雇用政策など、日本国民の一人一人の稼ぐ力を高める政策に振り分けていく必要があると考える。


※「核武装疑惑を自ら招いた日本」by中央日報社説
http://japanese.joins.com/article/180/154180.html?servcode=100&sectcode=110

※「非現実的な夢想家として」by村上春樹
http://japanese.joins.com/article/180/154180.html?servcode=100&sectcode=110

※あんま関係ないけど、Part Of Me by Katy Perry

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